綿密に作戦指示を出しながら、慣らし程度の練習をさせて、一日が過ぎた。
黙って指示を受けながらも、結局、イザークは何も言ってはくれない。
重い気持ちを引き摺ったまま、一夜が明けた。
コートを挟んだ向かいに、ラスティの姿を見かけた。
一瞬、視線が交錯したが、先日の約束通り、笑みすら見せない。
試合が終わるまでは『敵同士』という事らしい。
そのラスティの目が、僅かに細められ、きつい光を放った。
あの表情には、覚えがある。
昔、試合直前に、本気モードに入った時の顔だ。
あの当時は、何より頼もしかった、あの顔が好きだった。
…今は、怖い。
何気無く目をやった、ラスティの視線の先。
同じ様に、きつい光を放つ、アイスブルーがあった。
何時もの様に、ボディチェック。
ベンチ入りしている全員のコンディションを、一人ずつ、丁寧に確認していく。
最後にキャプテンの確認を終えて、顔を上げると、真剣な眼差しに出会う。
「何時ぞや、申し上げましたね」
「イザーク?」
「俺のプレイを見てください」
「…え?」
開始序盤から、試合は荒れた。
二回戦の不調が嘘の様に、切れの良いイザークの動き。
けれど、試合の流れは完全に、クインティリスのペースだった。
「…ラスティ…」
俺が指示した作戦が、悉く裏目に出ているのである。
ふと、向かいのベンチに居るラスティと、視線があった。
動体視力には自信の有る、俺。
無意識に、ラスティの唇の動きを読んでいた。
『お前の考えそうな事なら、お見通しだよ』
思わず唇を噛み締めて、俯く。
この劣勢は、俺の拙い策の所為だ。
現に、スタメンもベンチの控えも、動揺している。
キャプテン以外、全員の動きがぎこちない。
完全に押さえ込まれた状態に焦ったシンが、未だ序盤だというのに、ファールを連発し、二回戦の悪夢を連想したメンバーが、更に動揺する。
悪循環だった。
兎に角、流れを変えなければと、一度試合を止めた。
何か適切な指示を…と、思うものの、完全に動きを読まれていると思うと、上手い言葉も出ない。
八方手詰まりだった。