中途でキャプテンを欠いた試合。
二枚看板は伊達ではないと、意地を見せたシン。
終わってみれば、僅か一点差。
たとえ辛勝であろうとも、勝ちは勝ち。
それでも何とか、三回戦への道は繋いだ。
「…申し訳ありませんでした」
控室、皆の前で、俺に頭を下げたイザーク。
「…少し話したい。ホテルに戻ったら、俺の部屋に来てくれ」
生徒達は、マネージャーのシホ以外、全員がツインルームだが、俺とアデス先生は、シングルの個室。
ノックの音に扉を開くと、制服姿のイザークが佇んでいた。
入室を促し、椅子に座らせる。
俺もベッドの淵に、腰を下ろした。
「…今日の試合だが…」
「…申し訳ありません…」
何をどう言おうかと迷い、口篭っていると、イザークは先刻と同じ言葉を繰り返す。
「…終わってしまった事を、今更悔やんでも仕方が無い…取り敢えず、三回戦へ駒は進められた…」
「…はい…」
「反省は必要だが、後悔は意味が無い…何か有ったのか?」
少なくとも、コンディションは万全の筈だ。
自らの例が有るから、俺は部員の故障には、最大限の注意を払っている。
怪我で夢を諦めるなんて事は、自分だけで沢山だと思っているからだ。
試合中に何処か傷めたと解れば、エースだろうとゲームメーカーだろうと、容赦なくベンチに下げる。
無論、試合に出す前にも、ボディチェックは欠かさない。
「…何も有りません…」
「嘘を吐くな!!!」
「…何も無いと、言っているでしょう!!!」
「…イザーク」
「…三回戦では、気を付けます…もう、宜しいですか…」
話は済んだとばかりに、イザークは立ち上がる。
「…待ってくれ、イザーク」
「…日が落ちる前に、練習行ってきます…」
眼の前で、扉が閉じた。
一体、何が有ったというのだろう。
バスケに対する感覚が近しいイザークとは、生徒と教師という壁を越えて、何でも明け透けに話してきた心算だった。
イザークは、俺の弱さも全部知っている。
大人びて老成していて、年上の筈の俺が、何時も諭されて。
…でも、イザークだって未だ、17歳の少年だ。
悩み位有っても当然なのに、自分に打ち明けては貰えないのだろうか。
通じ合っていると感じていたのは、俺の思い込みで、実際は一方通行だったのだという現実が、今の俺には酷く重かった。