俺が呆けている間に、何時の間にか、イザークは姿を消していた。
「…ラスティ、何で、こんな事…」
「言葉だけじゃ、お前、理解出来ないだろ?」
「理解出来ないって…」
「留学の、ホントの目的、話してなかったよな」
「…ああ」
「…お前と一緒の生活、もう限界だったから」
「…え?」
「四六時中、一緒に居んのに、お前全然気付かないんだもんな…俺の前で、平気で裸になったりとかするし…」
「だってそれは、同室だし…大体、男同士で…」
「…ホント、変わんないよな、そういう鈍感なトコ…あの坊やも可哀想に…」
「坊や?」
「…吹っ切れた心算だったんだ。だから昨夜、誘ったんだよ。フツーに友人、出来るだろうって思って…でも、やっぱ無理…あんな顔で、バスケ、もう出来ないとか言われて…」
「…いや、それは…」
「…それに俺、無意識で頼んでんだもん、お前のイメージカラーの酒」
「ラスティ」
「このまま行けば、三回戦で当たる。試合終わったら、返事聞かせて欲しい」
「返事って…?」
「二度と逢わないか、俺の事、恋人として見てくれるか」
「…恋人!?」
「…用は、それだけ…それと、試合終わるまで、もう話し掛けないから」
言い捨てて、踵を返したラスティを、引き止める余裕すら無かった。
急にそんな事を言われても、頭が混乱して、訳が解らない。
確かにラスティの事は、好きだ。
親友なんてレベルの言葉じゃ、足りない位、大切に想っている。
けれど、それでも友人の枠内だ。
間違っても、恋愛対象の相手じゃない…と、思う。
鈍感と言われれば、否定しようも無い事実だけれど。
「…でも、だからって、いきなりキスは無いだろう…?」
結局、この晩、俺は作戦指示の打ち合わせには、出向けなかった。
眼の前で展開している事実を、脳が受け入れられない。
「…ファイブ…ファール…!?」
試合開始序盤から、精彩さを欠いていたキャプテン。
時には大胆なプレイもするけれど、基本は冷静且つ堅実が売りだったエース。
第三クォーター中盤、コート内で項垂れている、銀髪の少年。
審判は彼に、退場を命じていた。