お互い、土地勘の無い場所という事もあり、目に付いた喫茶店に入った。
ファーストフードを避けたのは、近場の店は殆ど、学生ばかりだったからだ。
「ラスティ、何処の学校なんだ?」
「クインティリス学園。知ってる?」
「…ああ、常連校だし、お前の地元だったっけ?」
「うん。お前は、アプリリウス代表のヴェサリウスだっけ?」
「ああ」
「聞いた事も無いけど、初出場?」
「まあね」
当たり障りの無い情報交換の後は、当然、突っ込んだ話になる。
「今、何やってんの、アスラン」
「…見ての通り、しがない私立校の教師だよ」
「教師?…コーチじゃないの?」
「…そういう学校じゃないんだ」
「ああ、お前、あのガッコ居たにしては、頭良かったもんね。でも、ちょっと意外かな。お前だったら、外国でプロになってると思ってたし」
この国に、バスケットボールのプロリーグは無い。
プロになる為には、外国へ出るしかないのだ。
「…お前こそ、とっくにそうしていると思っていた」
ラスティは、卒業式に出ていない。
高校三年の秋、海外に留学してしまったからだった。
ずっとルームメイトだったラスティの、突然の渡航。
寂しかったのも事実だけれど、あの頃は笑って見送る事が出来た。
近い将来、自分も同じ事をするだろうと、漠然と思っていたからだ。
…でも、今は。
「俺に、そんな才能無いって」
「そんな事無いだろう」
「ホントホント、こっち戻って、体育教師として、あのガッコで雇って貰ったの。あそこなら、コネがあったし」
「お前もコーチじゃないのか」
「専任のコーチ、何人も雇っているなんて、ディセンベル位でしょ。うちは、ヘッドコーチも、セカンドの俺も、単なる体育教師だって」
「…そうか」
「お前こそ、如何しちゃった訳?」
「どうって?」
「あんなバスケ馬鹿だったお前が、引退してフツーに教師やってるとかさ」
「…バスケじゃ、食べていけないからな」 「だから、教師やりながら、バスケ部の顧問?」
「ああ」
「嘘ばっか」
「…ラスティ?」
「そうやって視線を逸らすの、嘘吐いてる時の、癖だよね…俺の居ない内に、何か有った?」