インハイ本戦に出場するのが、初めてとは思えない貫禄だった。
理由は先頭を切って歩く、キャプテンが放っているオーラだ。
常連校のエースに、何等引けを取らない、カリスマ。
堂々と開会式を終えたメンバーと、合流する。
「確かに、約束は果たして頂きました。今度は俺が、先生との約束を果たす番ですね」
「未だだよ」
「…先生?」
「此処からが本番だ。イザーク、君も、こんな処で終わる心算は無いだろう?」
「…無論です」
不敵な笑みに、やはりイザークは、こうでなくては…と思う。
この眼差しに惹かれて、もう一度俺は、この場所へ戻って来たのだから。

今年のインハイ開催地は、オクトーベル。
ヴェサリウス学院の在るアプリリウスからは、遠く離れている為、男バスメンバーは昨晩から、オクトーベル入りしている。
勝ち進む限りは、ホテル滞在が続く訳だ。
進学校という事もあり、学校からの援助は一切期待出来ないから、滞在費に関しては、部員全員が自腹を切る様な事を、イザークは言っていたが、流石にそんな事は無かった。
インハイ初出場の男バスの為に、特別予算が組まれたのだ。
文武両道を謳う学院の方針としては、当然の配慮だと、理事長が強く押したらしい。
セカンドコーチとして、やはり現地入りしているアデス先生が、嬉しそうに語っていた。

初戦を難無く突破し、昨夜から滞在しているホテルへと向かう。
「アスラン!」
通路で声を掛けられ、振り返った。
聞き覚えの有り過ぎる、声。
懐かしい面差しが、其処にあった。
「…ラスティ!?」
「やっぱ、お前かぁ」
駆け寄って来たラスティは、そのまま思いっ切りタックルを掛けてくる。
躯が支え切れず、倒れそうになると、今度は抱き込まれた。
「…ちょっ、ラスティ」
「先刻、ちらっとベンチで見掛けた時、遠目だったけど、そうじゃないかって思ってたんだ」
「…解ったから、取り敢えず、放してくれ」
「えー、冷たいじゃん、アスラン、俺達の仲で」
「…これじゃ、落ち着いて話も出来ないだろ?」
「OK、了解」
素直に俺の躯を開放した後、眼の前で悪戯っぽい笑みを浮かべているラスティは、五年前と何も変わっていなかった。
懐かしさに、胸が熱くなる。
「お前んトコ、明日試合無いだろ?」
「…ああ」
「俺んトコも無いから、ちょっと付き合わない?」
「…あ、だが…」
生徒達を放っておいて…と思い掛けると、アデス先生に声を掛けられた。
「ザラ先生、どうぞ行っていらしてください」
「…ですが」
「積もる話も有るのでしょう?…何から何まで先生にお任せで、正直心苦しく思っていたのです。今夜一晩位、生徒達の事は、私が責任を持ちますので」
結局俺は、アデス先生の厚意に甘える事にした。