地区予選が始まった。
元々、全国を射程圏内に捉えていたチームだ。
こんな所で、苦戦なんてしない。
無論、一度負けてしまえば終わりだから、油断は出来ないが、そんな事は誰よりも良く解っているキャプテンが、皆を叱咤している。
俺が余計な口を挟む、余地は無い。
危な気なく勝ち進んでいく、男バス。
だから俺は、女バスの指示に専念する。
今年は未だ、その器ではないけれど、来年のインハイの為にも、公式試合の経験は、少しでも多い方が良い。

準々決勝で惜しくも敗退した、女バス。
残念だったね。
でも良く頑張ったよ。
来年は、本戦に行こう。
そう言って、残念会と称し、女バスメンバー全員を連れて、ルナマリアお薦めの甘味処へ繰り出す。
眩暈がしそうな程、甘い臭いに包まれた店内。
全員にスイーツをご馳走した俺は、臭いだけで胸焼けがするテーブルで、ストレートのアイスティーを飲んでいた。

女バスを解散させた後、学校で練習を続けている、男バスに合流する。
男バスが狙っているのは、本戦の優勝だから、予選の最中だからって、練習は休まない。
「キャプテン!」
皆を叱咤しながら、3対3の練習を続けているイザークに声を掛けると、十五分休憩の号令が掛かる。
「皆の調子は?」
「上々です」
「そうか」
「女バスの宴会は、終わったんですか」
「…ああ」
あの甘い臭いを思い出し、思わず顔を顰めると、イザークが笑った。
「…帰りに寄って頂ければ、何か口直しを提供しますよ」
「イザーク?」
「当分は、此方に専念なさって頂けるのでしょう?」
「ああ、無論だ」
「この先は、先生の力無しでは、勝ち進めません…細かい指示を、お聞きしたくて」
「そうだな。じゃ、帰りに寄らせて貰うよ」