困っていると、イザークが笑う。
「普通に飲んでください。俺だって、正式な手順なんて、守ってませんから」
「え?」
「こんな手抜きの点て方見せたら、母が卒倒します」
勧められるままに、口にした茶。
「…甘い…?」
「品質は厳選しています。一般的な抹茶が苦いのは、安物を使っているからでしょう。本物は、はんなりと甘いんです」
再度口にした茶は、昔飲んだものとは、雲泥の差だった。
「…美味しいよ」
「それは良かった…ところで、先生」
「うん」
「落ち着いたのなら、話の続きをしましょうか…一体何をしに、こんな所までいらしたんです?」
「…君が心配で…練習は兎も角、学校にも来ないし…」
「欠席の連絡は、学院にも入れた筈ですが?」
「…ああ、聞いている」
「なら、どうして」
「…君に助けて貰ったのに、お礼も言っていなかった…怪我までさせてしまったのに、俺は謝りもしないで…」
「…その事でしたら、お気になさらず。俺が勝手にした事ですし、怪我は俺が鈍臭くて、逃げ遅れたからです。大体、心配して頂く程の怪我じゃ有りませんし」
「…鈍臭いって、あの状況で、逃げ切れる訳ないだろう!?」
「あの日、先生、薄ぼんやりしていて、何だか危ないって思っていたんです。最初から、一緒に帰っていれば、あんな目に遭わせずに済んだのに」
「…イザーク」
「…だから、忘れて下さい。本当に大した事無いですし、来週は学校に戻ります」
「…だが」
「…そこまで仰るのでしたら、ひとつだけ、教えて頂けませんか?…此処暫くの間、何を悩んでいらしたのかを」
「…」
「…済みません。余計な事でしたね」
「イザーク」
「家の者に、ターミナル駅まで送らせます。此処は電車も、本数が少ないですから」
「待ってくれ、イザーク」
「遠いですから、早目に出ないと、遅くなってしまいますよ。それでなくとも、色々お忙しいのに」
「そんな事は、どうだって良いんだ!…俺は、お前が…」
「…先生?」
「…お前を失うのが、怖かっただけだ!!!」