その後の事は、自分でも何をしていたのか、よく覚えていない。
トラック運転手が携帯で呼んだらしい救急車が来て、イザークを病院へ運んでいった。
俺は救急車に同乗して、一緒に病院に行ったらしい。
素性を訊かれ、自分は教師で、患者は生徒だと答えた気がする。
イザークの処置の間、廊下の長椅子に座って、ぼんやりと待っていた。
自宅の連絡先等を訊かれ、学校に戻らなければ解らないと答えたのは、何と無く覚えている。
そうこうしている内に、イザーク自身が意識を取り戻した為、学校へ戻る必要は無くなった。

幸い怪我は、重篤な物では無かった。
左手首の捻挫と、全身の彼方此方に打撲と擦過傷。
本人曰く、たいした怪我ではないから、帰りたい。
唯、頭を打っており、一時的に意識を失っていた事からも、二三日入院して、様子を見る事になった。

入院手続き等で、どうしても必要だった為、イザークの自宅へ連絡を入れなければならない。
イザークに自宅の電話番号を教えて欲しいと伝えると、言われた。
自分で連絡するから、必要有りません。
もう帰ってください…と。

完全看護システムだった為、付き添いも出来ず、俺は一人、病院を後にした。

翌朝、どうしても気になって、登校前に病院を訪ねると、病室のドアの前で、中から言い争う声が聞こえた。
入るに入れず、何と無く廊下の隅へ歩いていくと、イザークの部屋の扉が開く。
イザークに良く似た、和服姿の女性が、俺には気付かず、足早に去って行った。

我に返って、挨拶位するべきだったと気付いた時には、もう女性の姿を見失っていた。
仕方なく病室に入ると、不機嫌さを隠そうともしないイザークが、ベッドに腰掛けている。
「イザーク」
「…どうしたんです?…こんな早くに」
「…どうしたって…」
「…見ての通り、俺は元気です…心配は要りません…もう朝練が始まりますから、学校行ってください」
「…イザーク、俺は…」
「…先生が居なきゃ、アイツ等、真面目に練習しませんから」
追い出される様に、病室を後にした。
学校に向かいながら、気付く。
イザークに対し、礼も詫びも、告げていなかった事に。