以前、イザークのマンションを訪ねた頃から、裕福な家庭の子息なのではないかという事には、薄々気付いていた。
けれど、それは、会社経営者とか、そういった類の職業だと思っていたのだ。
茶道家元。
言われてみれば、細かい所作にも気品を感じるけれど…。
「だが、イザークのマンションでは、何時も紅茶を出されていたぞ」
ウエッジウッドのティセット。
何種類も置かれていた、茶葉の金缶。
「何時も?…センセ、そんなにしょっ中、イザークんトコ、行ってんの?」
「…いや、そういう訳じゃないが」
「アレ、実家じゃ飲めないからっしょ?」
「そんなに厳しいのか?」
「んー、確かにそういうトコ、有ったかも。でも、本人全然苦にして無いから、良いんじゃないの?」
「苦にして無い?」
「茶ぁ点ててんの、一回見た事あるけど、凄っげーサマになってるってか、板に付いているって感じ?着物姿とかさぁ、全然違和感無ぇの」
言われて頭に浮かんだ姿は、確かにしっくりと嵌まる。
「イザークは、次期家元って事なのか?」
「…じゃないの?本人も嫌がってなかったし。バスケの事だけは、色々言われて、今は断絶状態みたいだけど」
バスケという単語に、心臓がひとつ大きく鳴った様な気がした。
恐る恐る口を開く。
「断絶って…」
「アイツん家、アイツがバスケに傾倒してんの、気に入らないみたいでさ…別にガッコのクラブ位、何やってたって良いと思うんだけど、格式の高い家だとやっぱ、そういう訳にもいかないんじゃないの?」
「…学校のクラブ…か…」
「…センセ?」
「…いや、引き止めて悪かった、ありがとう」
逃げる様に、その場を去った。

学校でのクラブ活動すら快く思っていない家人が、ナショナルチームへの参加等、認める筈がない。
恐らく、イザーク自身もナショナルチームへ入る事なんて、考えた事も無かったのだろう。
確かにイザークは、本当にバスケが好きなのだろうけれど、飽く迄、学校のクラブ活動としてだけの事だったのだ。
それなのに、俺は…。