無理難題を、イザークに押し付けているという事実が、重い。
 約を違える様な、人間では無いのだ。
 選抜メンバーに選ばれてみせると言えば、確実にその通りにするだろう。
 けれど、それは彼本人にとって、本当に望ましい事なのか…?

 指導に集中出来ない。
 授業も、何だか上の空だった。
 気付けば、ずっと同じ事ばかり考えている。

 ぼんやりと歩いていて、気付いたら、階段を踏み外していた。
 左脚は軸足にならないから、何時も段差には細心の注意を払っている。
 余程、呆けていたという事だろう。
 けれど今更、そんな事を反省してみても、遅い。
 転落を覚悟したら、直ぐ下の段で支えられた。
「何やってんだよ、センセ」
「…ディアッカ」
「いい年して、恥ずかしいじゃん。階段、踏み外すとか」
「…ゴメン、ありがとう…」
「…いや、別に良いんだけどさ」
「…助かったよ…ホントに、ありがとう」
「…あのさ、センセ」
「うん」
「…何か、悩みでも有んの?」
「…え?」
「…最近、何か変じゃん」
「…そう、かな…」
「センセが暗いと、煩いのが二人居んだよね」
「…煩いのが、二人…?」
「…キャプテンとルーキー」
「…」
「…何か有んだったら、話してみない?」
「…」
「…だよなぁ。俺に言える位なら、とっくにイザークに言ってるだろうし」
 立ち去り掛けたディアッカの腕を、思わず掴む。
「…センセ?」
「…イザーク、独り暮らしだよな?」
「…ええ、まあ」
「…何でか、知ってるか?」
「そりゃ、ガッコ遠いからっしょ?」
「…実家、遠いのか?」
「通って通えない距離でも無いんスけど。アイツん家、金持ちだし」
「…ご両親は、何をなさっておられる人なんだ?」
「何って、職業?」
「ああ」
「確か、茶道の家元とかって…流派までは、流石に一寸…」
「茶道家元!?」