俺の言葉に、オロールが足を止めた。
「皆、戻ってきたよ」
ゆっくりと振り返る。
「戻る気は有りません」
「どうして?」
「…俺は三年ですし、外部受験考えているので、部活にばっかり時間は割けません。でも、イザークに悪いと思っていたから続けていたんです…でも、もうレギュラーでもありませんし、続ける必要なんて無いでしょう?」
「なら、どうして君は毎日の様に、練習を見に来ていた?」
「…それは」
「バスケが好きだからじゃないのか?」
「…確かに、そうですが…それでも、優先順位っていうのが有ります」
「受験勉強の方が、大切だと?」
「…俺はイザークみたいな、何でも出来る優等生とは違います。朝から晩まで、バスケ三昧で、それなのに主席は絶対に譲らないイザークみたいな、天才とは」
「イザークが、何の努力もしていないと、本気で思っているのか?」
「そんな訳、ありません。アイツは家族にバスケやる事反対されてて、だからこんなガリ勉校に押し込まれたんだって事位、俺も知ってます」
オロールの話は初耳だった。
俺の方が驚かされた話だったが、オロールは気付かず言葉を続ける。
「だけどアイツ、自分でバスケ部立ち上げて、成績落としたら、部活続けさせて貰えないから、勉強も手を抜けないんだって事位は」
「…そうか、そこまで解っているのなら、もう言わないよ。確かに、学生の本分は学業だ。受験勉強の為ならば、止むを得ないだろう…唯」
「…唯?」
「バスケが好きで、やれるのなら、やって欲しいと思っただけだよ」
「…」
「俺は、やりたくても、もう出来ないからね」
「…先生?」
「イザークとの勝負、君も見ていただろう?」
「…はい」
「ホントはイザークの勝ちだったんだ」
「え?」
「…だけどイザーク、途中で俺が脚故障している事に気付いて、それで…」
「…違うと思います。イザークは手加減なんて、する奴じゃない」
「オロール?」
「相手が怪我していたからって、手抜きなんてしない奴です。怪我している場所を態と狙う程、卑怯でもないですけど…それでも、そんな失礼な事する奴じゃありません」
「…随分、信頼しているんだ…」
「…バスケ部の連中は皆、そうです…イザークが好きで、集まった奴ばかりですから」
「凄い人徳だな」
「…だから、そんなイザークが先生の事を、是非にって望んだ時、納得がいかなくて…幾らバスケが上手くても、やる気の無い人に無理矢理ヘッドコーチやらせるなんて」