ギャラリーの女性陣には、不満が残る試合だっただろうが、そうでなかった人間も、観客の中には居たらしい。
試合終了後の片付けをしていると、歩み寄ってくる気配。
「…ザラ先生」
「…何かな?」
「…何で俺がレギュラーから外されたのか、漸く解りました」
「…」
一番初めに部を去った、元レギュラーのマシュー。
「…俺達じゃ、イザークに頼る事しか出来なかった」
「…マシュー」
「…イザークを使わなくても、勝てる試合が出来るなんて」
「…使わなかった訳じゃないよ…切り札として、隠しておいただけだ…それに、イザークは充分に、活躍していたと思うけれど?」
「…そうですね、俺達じゃ、あんな風にイザークを使う事なんて出来ない」
「…そんな事はない」
「…一年と一緒に玉拾いで構いませんから、もう一度、入部させて下さい…」
「…インハイは、長丁場だ。レギュラー五人だけで、戦い抜いていける筈無いだろう?」
「…先生?」
「君達の力が、必要なんだ」
「ありがとうございます」
頭を下げたマシューは、翌日から通常練習に参加していた。

マシュー復帰を切っ掛けにして、辞めた三年部員達が、次々と戻って来る。
流石に、一年と一緒に玉拾いでは無かったものの、シンと一緒に基礎練だ。
シンはブランクが一年もあるけれど、その間怠けていた訳では無い。
サッカー部で次期エースストライカーと呼ばれる程度に、鍛えられていたのだ。
ところが、三年部員達は、約一ヵ月、無為に過ごしていた。
練習を休んだのが、たった三日だったとしても、勘を取り戻すのは難しい。
一ヵ月の空白は、厳しいだろう。
でも流石に、イザークが集めた部員達だけあって、途中で投げ出す事も無く、地道な練習を続けている。
そして今、俺は、一人の男子生徒と向かい合っていた。
「…!」
「…オロール」
体育館裏、偶然の鉢合わせ。
…否、偶然ではないだろう。
時折、こっそりと練習の様子を、見に来ていたのを知っている。
立ち去りかけた背中に、そっと問い掛けた。
「君は、戻る気はないのか?」