練習試合はアウェイが多かったけれど、今回はホームだった。
珍しく、先方から申し込まれたのだ。
二年の二人の為に、試合経験は少しでも欲しかったから、二つ返事で引き受けた。
ウィンターカップでは、県大会の準決勝まで残ったチームだから、相手にとって不足も無い。
シホにだけは、相手チームのデータを細かく取っておくように指示したけれど、皆には何も言わなかった。
少しは成長したレギュラー陣の、試合運びを見たかったからだ。
学院の体育館での試合という事もあり、ギャラリーが何時になく多い。
公式大会の試合でもないのに、垂れ幕まで下がっていた。
女生徒が殆どだが、男子生徒の姿も、ちらほらと見える。
その中に、退部届を俺の机に叩きつけた、元部員の姿があった。
初めての練習試合の時を思うと、嘘の様に動きのよい二年。
未だ二年なのにレイが、コート内の主導権を握っている。
シンのシュートも、面白い位に決まっていた。
先日の宣言通り、イザークはアシストに徹して、一本もシュートを打たない。
ギャラリーから、ブーイングの声が聞こえた。
声が聞こえた辺りで応援している女生徒は、イザークのファンクラブの子達だ。
練習中でも我関せずのイザークは、無論、気にも留めていない。
シンがシュートを打ち易い様に、絶妙のラストパスを送っている。
そんな試合展開に、相手チームの方が戸惑っていた。
当然だ。
相手チームは、この学院を『イザークのワンマンチーム』としてしか、知らない。
だから試合開始時点から、イザークにマークを2枚も付けていた。
けれど、シュートを打っているのは、シンばかり。
主な得点源となっているのは、シンのレイアップとダンクだ。
時折、リバウンドを制したディアッカや、ノーマークで3ポイントシュートを放つニコルが稼いだ点もあるけれど、殆どはシンが決めたシュートだった。
流石に、第3クォーターまで来ると、相手チームもディフェンスを変えてくる。
シンに集中的に、マークが付く様になった。
フリーとまでは行かずとも、ディフェンスがかなり甘くなったイザークが、そろそろエンジン全開で攻めるのかな…と、考える。
けれど、俺が唯一の相手として選んだ少年は、俺の想像より、ずっと頑固者だった。
暫くはアシストに徹すると言った通り、この状況になっても、一本もシュートを打たない。
自らゴール下に切り込んで、ダンクを打つと見せ掛け、自分にマークを引き付けた所で、サイドに居たニコルへ、リターンパス。
ノーマークの3ポイントが、綺麗に決まった。
シンを使っての時間差攻撃も、見事な物だ。
結局、試合終了の笛が鳴るまで、イザークは一本もシュートを打たなかった。