ざわめきの中、問い掛ける。
「どうして、そう思った?」
「今の俺に、一番必要な事だからです」
「…そうか」
それ以上は、訊かない。
多分イザークは、俺の趣旨を充分に、察してくれている筈だから。

シンを抜擢した目的は、無論シンの将来性を感じさせる才能故だけれど、それだけじゃない。
ポイントゲッターを二枚看板にする事で、攻撃の幅を広げる為だ。
旧メンバーで編成されたレギュラーは、完全にイザークのワンマンチーム。
イザーク一人を抑えられたら、もうどうしようもない。
けれど、もう一人ポイントゲッターを置く事で、相手方のディフェンスのマークを、分散させられる。
確かに、シンには将来性がある。
けれど、このチームの要は、飽く迄イザーク。
イザークの力を十二分に引き出すには、囮としてのシンの存在が、有効なのだ。
良くも悪くも、プレイの派手なシン。
相手チームのディフェンスを引き付けてくれればくれる程、イザークがフリーになる。
伊達にエースの称号を背負っている訳じゃない。
フリーにさせて、点が取れない様な、甘い人間ではないのだ。
イザークも、その辺りを理解した上で、アシスト役を願い出たのだろう。

でも、イザーク。
君には未だ言う心算はないけれど、本当は、それだけじゃない。
君は確かに、このチーム内ではエースだけれど、ナショナルチームに入れば、そうはいかないだろう。
君と同等か、それ以上のプレイヤーが、ゴロゴロ居るんだ。
多分、もう成長期は終わってしまっている、イザーク。
センターがやれる様な身長ではないから、与えられるであろうポジションは、スモールフォワードか、ガード。
君に与えられる役割が、このチームと同じ、インサイドからのポイントゲッターであるとは、限らない。
元々オールラウンダーだった君だけれど、卒業までの短い時間に、伝えられる事は全て伝えたかった。

長かった様で、あっという間だった、13年。
朝から晩まで、バスケに明け暮れた日々。
辛くて、苦しくて…でも、幸せだった。
あの13年間で、俺が培ってきた技術は、全て君に託す。
俺が生きて来た証を、君という体現者に、どうしても残しておきたいから…。