暫くして、電車がバックで徐行運転を始めた。
電車が少し揺れるだけで怯える俺を、イザークは確りと抱き込みながら、赤子をあやす様に、髪を撫でる。
発車したばかりの駅に電車は戻り、ドアが開いた。
イザークは、俺を抱えたまま、電車を降りる。
「…イザーク?」
「復旧には、時間が掛かるそうです。それに先生、歩けないでしょう?」
確かに支えて貰っているから、何とか歩けるものの、独りで歩くには、あまりにも足元が覚束無い。
「…抱いていってあげても良いんですが、流石に嫌でしょう?」
そう言われながら、着いた先はタクシー乗り場。
先を急ぐ人間が、集まり始めている。
半ば呆けたままの俺を、イザークは有無を言わせず、タクシーに乗せた。
漸く戻りつつあった冷静な思考で、連れて行かれた先が、イザークの自宅であった事に俺は気付いた。
驚いて、イザークの顔を見ると、何も言わない内にイザークは口を開く。
「先生、どうせ家に戻っても独りでしょう?」
「…ああ」
「今の貴方、独りに出来ません…家族が居られるなら、自宅まで送り届けましたが」
「…そんなに酷いか?…今の俺は…」
「…自覚が無いのなら、尚更です」
部屋に通され、出されたのは、ハーブティ。
カップを手にすると、ハーブの芳香が鼻腔を擽った。
「先生、何か食べられそうですか?」
「…あ…いや…」
微かに、首を横に振る。
正直、食欲は全く湧かなかった。
「…でしょうね…だったら、横になった方が良いな」
備え付けのクローゼットから、スウェットを一組と新品の下着を取り出すと、俺に差し出す。
「背広、皴になりますよ」
「…」
「シャツも下のランドリーに預ければ、朝には上がります。下着は俺のでも、大丈夫でしょう?」
「…イザーク」
「先刻、随分汗を掻いたでしょう?…風邪を引きますよ…シャワー使ってくれて構いませんから、着替えてください」
「…だが」
「学校、休みたくは無いでしょう?」
動かない俺に焦れて、イザークは俺から上着を剥ぎ取った。
ソファの背凭れに、そっと置くとイザークはベルトに手を掛ける。
「…止めろっ!!!」