気の所為か、イザークに避けられている様な気がする。
話し掛ければ返答はするし、用事を頼めば快く引き受けてもくれるが、何だか対応が素っ気無い気がするのだ。
やはり未だ、自分の方針が信じられないという事なのだろうか。
シンとレイを、集中的に指導する。
特にシンはブランクが有る分、徹底的に鍛えた。
体力の限界を見極め、ギリギリまでやらせる。
躯を壊しては、元も子もないから、私生活まで煩く口を出した。
文句を言いながらも、シンは途中で投げ出す事なく、俺のシゴキに耐えている。
結果さえ出せれば、イザーク達も納得してくれるだろう。
久しぶりにイザークと、電車が一緒になった。
少し混雑した車内で、イザークの隣の吊革に掴まる。
最近はあまり話もしていなかったから、二年の仕上がり具合も併せて、色々話そうと口を開きかけた時、急ブレーキの音がした。
バランスを崩して倒れかけた躯を、イザークが片手で確りと支えている。
「…あ…」
周囲で上がる、悲鳴。
ガクンという衝撃の後、電車は停車した。
バランスを崩して転んだ人達が、文句を言いながら、服の汚れを掃っている。
車内放送で緊急停車の事情説明が始まったが、そんなものを聞く余裕なんてなかった。
まともに立っていられない。
ガタガタと全身を襲う、震え。
全てを奪われた、あの日の光景が、眼の前に展開する。
フラッシュバックだと解っていても、漏れそうな悲鳴を堪えるのが精一杯で、震えは一向に治まらない。
「…嫌…だ…」
怖い、怖い、怖い。
恐怖に耐え切れず、ぎゅっと眼を瞑った時、抱き込まれたのが解った。
「…先生、大丈夫だから」
耳元で、そっと囁く声。
とくん、とくん、とくん、とくん。
何の音だろう。
…心音?
生きてる…?
誰が?
「…あ…」
ゆっくり眼を開けて、そっと見上げると、イザークの顔。
「大丈夫だよ、先生」
優しい笑顔。
「…イザ…ク」
意識しない涙が、一滴零れた。