「シンを選んだ理由?」
「…そうです」
確かに、以前レギュラーオーダーの話をした時には、未だシンは居なかったから、レイについては何かコメントした様な気もする。
言われてみれば、シンについてはイザークにも、何も言っていない。
入部したいと言ってきた時の、シンの姿が頭に浮かぶ。
「…一番の理由は、俺と同じバスケ馬鹿だったから、かな」
「冗談を聞いて、笑える様な気分じゃありません」
イザークの声音が、酷く冷たい。
「…冗談で言っているんじゃないよ、大真面目な話だ…幾ら運動神経が良くても、テクニックに秀でていても、本気で好きじゃなければ、ある一線を越える事は出来ない…君みたいに、バスケを本気で好きじゃなければ、頂きには絶対に届かない」
無様でも辞められないと言い切った、イザークの言葉が忘れられない。
あの時知った、自分の甘さ。
俺を叱咤してくれたイザークに、自分には無かった本当の剛さを見た。
…そう、頂点に君臨するのは、イザークの様な人間こそが相応しい。
「…シンは、貴方のお眼鏡に適ったと?」
「才能も本物だよ…あの身長で、ダンクが打てるんだから」
成功確率を考えれば、未だ未だのレベルだったけれど。
「随分と気に入っていらっしゃるんですね」
平坦な声音からは、感情が読み取り難い。
「鍛えれば、化けるのは解っているからね…暫く特別メニューを組ませる心算だ」
「…そうですか」
「大丈夫、予選には間に合わせる。インハイ本戦では、充分な戦力になっている筈だ」
長居を詫び、紅茶の礼を言って立ち上がる。
この辺りは道が込み入っていて解り難いからと、ご丁寧に駅のホームまで、イザークは送ってくれた。
丁度入線してきた電車に乗り込むと、ドアが閉まる寸前にイザークが呟く。
「…貴方の夢を叶えるのは、シンでも構わない…という事ですね?」
「イザーク?」
言葉の意味を問い返そうにも、無情に閉じたドアの向こうに居るイザークには、もう届かない。
遠ざかる後ろ姿を、あの日の様に、なす術も無く俺は見送った。
そういえばイザーク自身も、何か話があると言っていたが、結局、イザーク側からの話の内容は、全く聞いていなかった事に、俺は気付く。
彼は自分に、一体何を、言おうとしていたのだろうか。