帰りの電車が、イザークとは時々一緒になる。
何時もの様に、最寄り駅で降りるイザーク。
「…先生?」
後を追って途中下車した俺に、イザークは怪訝そうな顔をする。
「…少し話したいんだが、構わないか?」
「…じゃ、家に」

案内された先は、ワンルームのマンションだった。
「独り暮らしなのか?」
「ええ」
何も無いですけど…と出された紅茶が、淹れられていたのは、ウエッジウッドのティセット。
眼の前の少年は、考えていたよりずっと良家の、子息であったらしい。
長居をする心算は無いと断ったのだが、自分も話が有るからと押し切られた。
小さなローテーブルで、向かい合って座る。
「…三日前、俺の元に三年五人から、退部届が届いたよ」
「聞いています」
「君が、必死で掻き集めた部員だ」
「…実力が無いのなら、レギュラーを下ろされても当然でしょう…その位の事で辞めるのなら、最初からその程度だったという事です」
「…それは、君の本音か?」
「やる気の無い人間は、必要ありません」
「オロールもマシューも、練習熱心な部員だったよ…やる気が無いなんて事は無い」
「補欠にされた位で辞めたという事は、やる気が無いという事でしょう」
「やる気が無いんじゃなくて、俺のやり方が気に入らなかっただけだろう?」
「同じ事です。ヘッドコーチの指示に従えないのなら」
「本気で言っているのか?」
「じゃ、何て答えれば満足するんです?…俺だって、シンの抜擢には、正直納得がいきません…才能は有るのかもしれませんが、シンを育てているだけの時間は、俺達三年には無いんです」
「…君も、俺が信じられないのか?」
「…信じたい、です…ですが、無条件で、貴方を信じられる程、貴方の事を知っている訳でもありません」
「…君がそれでは、バスケ部全員、俺を疑問視しているんだろうな」
「…」
「…インハイで優勝させてみせるって言葉は、嘘じゃない…地区大会の予選までに、二年の二人は必ず間に合わせる」

 暫くの間の後、イザークはポツリと口を開いた。
「…教えてください…シンをフォワードとして、選んだ理由を」