一通りテストをしてみて解った結果は、全体的な体力不足。
部内の練習の他に、自主トレをしているらしいジュールは別だが、これでは真夏のインハイの長丁場は戦えない。
況して女子は、論外のレベルだった。
基礎体力作りが、先決だ。
技術的な話は、その後で良い。
最初から飛ばしていては、直ぐにダウンしてしまうだろうと、控えめに組んだ、女バスの練習スケジュール。
キャプテンとマネージャーを呼び、紙を渡しながら説明する。
今の段階で、俺が彼是と指導出来る事は、女バスには無かった。
測定が一段落したらしいアスカが、声を掛けてくる。
午後練が始まる前に、ハーネンフースを通じて、部員たちへは、新入部員として紹介させてあった。
結局、戻って来たのかよと、同じ二年部員から、からかわれていたが、直ぐに馴染んだ様だ。
「先生、何で、ルナ達だけ、名前で呼んでいるんですか?」
「え?」
「他の奴は、苗字で呼ぶのに」
「…あの二人は、姉妹だから、名前で呼ばないと、紛らわしいだろう?」
「じゃ、俺の事も、名前で呼んでくれませんか。俺、ファミリーネームって、呼ばれ慣れてなくて」
「…別に、構わないが」
「序でって言ったら何なんですけど、レイの奴もそうしてやってくれませんか。アイツも帰国子女なんで、ファーストネームの方が、慣れてるんです」
丁度、本人が近くに居たので、聞いてみた。
「そうなのか、バレル?」
「はい」
「じゃ、今度から、レイって呼ばせてもらうよ」
「お気遣い、ありがとうございます」
軽く会釈して、レイは練習へ戻っていく。
「ずるいです、先生。私も名前で呼んでください!!!」
突然割り込んだ声に振り返れば、ピンクの髪をポニーテールにした、女バス部員のミーア=キャンベルが、そこに居た。
「ちょっと、ミーア、練習サボってんじゃないわよ!」
「そうよ、早く戻りなさいよ!!!」
次々と女バスのコートから飛んでくる声も、完全に無視している。
「私の事も、名前で呼んでください!!!」
「…解った。解ったから、練習に戻れ」
丁度、通りすがったアマルフィが、ポツリと呟く。
「先生、いっそ全員、名前で呼んだら如何ですか?」
その言葉を受けて、シンの測定表を持ってきたハーネンフースが、冷静なコメントを入れた。
「そうなさってください。そうすれば、平等ですから、ずるいだの何だのという、くだらないクレームはつかないでしょう」
「…それは、構わないが…それで良いのか、皆」
涼やかな声が、返る。
「問題ないでしょう」
声の主は、練習が一段落したらしく、此方に向かって歩いて来るエース。
「ジュール」
「イザーク、です。先生」
「…イザーク」
初めて口にした名は、不思議な響きがした。