翌日の昼休み、ハーネンフースが、職員室の俺の元を訪ねて来た。
「ザラ先生、入部希望者なんですが」
「入部希望者?」
見れば後ろに、もう一人。
「アスカ?」
見覚えの有る顔は、二年で俺が物理を担当している、S21Rの生徒。
「S21の、シン=アスカです。宜しくお願いします」
昨日、俺がレギュラー入りを決めたバレルとも、同じクラス。
…けれど。
「お前、サッカー部じゃなかったのか?」
次期エースは確定だと、風の噂で聞いた様な気がするのだが。
「サッカー部は、昨日付で退部しました」
「サッカー部を辞めた?」
「ですから、バスケ部に入れてください」
「…アスカ…ひとつ訊くが…お前の身長は?」
「172です」
「…」
「一応、経験は有ります。俺、中等部ではバスケ部でしたから」
「サッカーに転向したのに、何でバスケに戻って来たんだ?」
「転向した理由は、先程、先生が仰った通りです。俺、高等部上がった時、165しか有りませんでしたから」
「165?」
「はい」
「俺が訊いたのは、戻って来た理由だ」
「やっぱりバスケが、好きだからです。一年サッカーやって、良く解りました」
進学校のクラブとはいえ、サッカー部の次期エースとまで呼ばれていたのに、それでもバスケが良い…か。
「一年間で7センチ伸びているのなら、未だ成長期なんだろう」
「はい、毎日牛乳2リットル飲んでます」
…此処にも、一人居た。
俺と同じ、バスケ馬鹿が。
「マネージャー、入部手続きを頼む。それから、今日の午後練で、彼の分の身体能力測定、やっておいてくれ」
「解りました」
「それから、アスカ」
「はい」
「牛乳2リットルは、飲み過ぎだ。腹を壊す。過剰摂取しても、余分なカルシウムは体内に吸収されない」
「はい」
ディセンベル学園時代、実は同じ事をして、腹を壊した過去がある。
チームメイトであり、寄宿舎のルームメイトでもあった、ラスティ=マッケンジーに介抱されながら、呆れ口調で言われた言葉の受け売りだというのは、内緒だ。