その日から始まった、スポーツテストを擬える様な練習。
部員達の反射能力が、次々とデータ化されていく。
一通り済むと、今度は体力測定。
短距離、中距離、長距離を走らせ、それぞれのマネージャーが、タイムを記録していった。
ジャンプ力の測定を、あらゆる方法で行う。
男女共に、そうなのだが、このチームは、全体的に、メンバーの背が低いのだ。
バスケに於いて身長は、何にも勝る武器になる。
俺自身、身長が178しかなかったから、ガードをやっていたのであって、そんな制約に縛られる前は、ジュールと同じスモールフォワードだった。
そんなジュールも、183センチ。
ゴール下の競り合いをするには、低い。
あの圧倒的なジャンプ力で、身長の低さをカバーして余りあるが、他のメンバーは、そうはいかないだろう。
センターは、今の所、副キャプテンのディアッカ=エルスマン以外に、やれそうな人間が居ない。
部内で一番高い、190の身長。
垂直跳びの数値も、悪くなかった。
センターとしては高い方ではないが、ジャンプ力がある分、独活の大木よりは、ずっといい。
だが、問題はフォワード陣より、ガードだった。
ゲームメイクが出来る程の人間が居ないから、フォワードの筈のジュールが、ボール運びまで、しなくてはならない状況になってしまっているのだ。
これでは、ジュール一人を抑えられたら、もう負けは確定である。
ウインターカップの記録を、ハーネンフースはきちんと映像で残しており、俺はそれらを全て借り受けて、自宅で全部見せて貰った。
幾ら類稀な才能の持ち主でも、マークを常時3枚も付けられていれば、抜ける筈がない。
そして、改めて知らされたのだ。
ジュールのワンマンチームなのだと。
「先生から見て、俺がガードをやるべきですか」
帰りの電車が、時折一緒になるジュールに、そう訊かれた。
「それじゃ、問題の解決になってない」
「うちは、先生のところみたいな、スポーツ名門校じゃありませんから」
「…それでも、君が、あそこまでにしたんだろう?」
「俺の力では、あれが限界です」
「君とエルスマンは、良い。体力が無いのは欠点だが、アマルフィもスリーポイントシューターとしては、まあまあだ」
「はい」
「今のレギュラーは、ゼルマン先生のオーダー?」
「…ええ、ゼルマン先生と、俺で。どうしても高学年の方が、体力も技巧も上ですから」
「ポイントガードだけれど、二年のレイ=ザ=バレルを考えている」
「レイを?」
「技術的には未だ未だだが、恐らく磨けば光る」
「インハイに間に合うのですか?」
「彼にゲームメイク全部は、荷が重いよ。アマルフィとツインガードにと思ってね」
「ツインガードですか?」
「ああ」
やはりこうして並んで腰掛けた、あの夜には、こんな風に穏やかに、言葉を交わすようになるなんて、夢にも思っていなかった。