アデス先生からの、たっての依頼に、俺は頭を抱えた。
好人物なアデス先生に、笑顔で控えめに頼まれ、結局断れなかったのだ。
男子バスケットボール部顧問の任命書と共に、女子バスケットボール部の任命書も手元にある。
女子の文字に、思わず溜息が零れた。

ディセンベル学園には、女子バスケットボール部も確かにあった。
だが、そこはスポーツ名門校。
女子部とは、コートはおろか、使用する体育館さえ別だったのだ。
交流も全く無く、お互い試合の応援にすら行った事もないから、俺は女子部のレギュラーメンバーすら知らなかった。
クラブ以外でも、男子ばかりの理系進学クラスに居たから、女子と接した事なんて、殆ど無い。

この学院も、男女比では、男の方が圧倒的に多く、俺は理系クラスしか担当していないから、女子に対する免疫が殆ど無いのだ。
アデス先生の話では、女子部は出来たばかりで、三年は一人も居ないらしい。
大会経験も当然、全く無い。
女子部の方は、ジュールの様な子は居りませんから、ご心配なく。
どうぞ気楽にやってくださいと言われても、はいそうですねとは、言えないだろう。
せめて、地区大会予選を通れる程度には、してやらねば。

放課後の練習から、参加する事になった。
アデス先生が両バスケ部員を、集合させる。
「今日から、君達の指導は、ザラ先生が行う事になった。男子部には紹介の必要もないだろうが」
「宜しく」
軽く頭を下げると、女子の一人が挙手をしている。
「ザラ先生、ひとつ伺っても宜しいでしょうか?」
その女生徒には、見覚えがあった。
男バスのマネージャーを、やっていた子だ。
「どうぞ」
「此処に、女バスも呼ばれたという事は、女バスも先生が指導なさるという事なのですか?」
「そういう事になるね」
途端に、その場が騒がしくなった。
女子部の方は姦しいだけだが、男子部のそれは違う。
「先生、無論、メインの指導は、男子部だと考えて宜しいんですよね?」
先刻の子だ。
やけに拘るな…と思っていたら、更に一言。
「女子部の指導に、先生の時間を取られる様では、困ります。お遊びでやっている女子部に、構っていられる程、此方も余裕はありませんから」
「何ですって!?」
一斉に、女子部のメンバーがいきり立つ。
一触即発の雰囲気の中、ふと彼に眼をやると、口よりも雄弁な彼の瞳が、マネージャーと同意見であると、はっきり告げていた。