顔を洗って、そのまま職員室へ戻った。
アデス先生の姿が席に在るのを確認し、歩み寄る。
「アデス先生」
小テストの採点をしていたらしいアデス先生は、手を止めて顔を上げた。
「ザラ先生、何か?」
「…先日は、お騒がせしました」
あの勝負の時、アデス先生は、その場には居なかったが、経緯は耳にしている筈だ。
「ああ、生徒達が騒いでおりましたよ。私も拝見させて頂きたかったですな」
穏やかな笑みを浮かべながら、手元の赤ペンを玩んでいる。
「私はバスケットに関しては、この通り素人で、名ばかりとはいえ任された以上は…と、本を買って、少しは勉強もしておるんですが、中々…昨年で退職したゼルマン先生は、多少は経験があったらしく、殆ど彼に任せておりましたが、今年度は、私一人になってしまって、正直、困っておるのです」
「そうですか」
「お解りと思いますが、この学院は進学校で、あまり課外クラブに力は入れておりません。バスケットボール部の予算も、他校と比べれば微々たるものです。それなのに、ジュールはインターハイ出場等と、夢の様な事を…」
「…夢じゃありません」
「ザラ先生?」
「私が、彼等をインハイへ連れて行きます」
「…それは、顧問を引き受けて下さるという事ですか?」
「学院長にお願いして、正式に任命して貰う心算です。その前に、ご挨拶を…と思いまして」
「ええ、クラブ顧問を引き受けたがる人間は、あまり居りませんから、学院の方は申請さえすれば、直ぐに通るでしょうが…でも、本当に宜しいのですか?…その、生徒達の話では、大分嫌がっていたと聞き及んでいるのですが…」
「…嫌がっていた訳ではありません…自信が無かっただけです」
「…それでは」
「…是非、やらせて頂きます…いえ、やらせてください」
「ザラ先生」
「生徒達への指導は、全面的に任せて頂いても、構いませんか?」
「無論です。こちらこそ助かります」
「ありがとうございます。全力でやらせて頂きます」
「…あの、ザラ先生、ひとつお願いがあるのですが…」
「…何でしょうか?…私に出来る事であれば、微力を尽くしますが」
「そう言って頂けますと、大変助かります…実は、私、女バスの方も兼任しておりまして、其方も是非、ザラ先生に…」
「…女バス!?」