足元を転がるボールを拾い上げて、胸元に抱いた。
「…ザラ先生?」
「どうなんだ!?…答えろ、ジュール」
更に問い詰める。
「…引き受けて頂けるのでしたら、有り難い事ですが…でも、どういう風の吹き回しです?…あれ程、嫌がっておられたのに」
「…無論、条件が有る」
「条件?」
「…俺の果たせなかった夢を、君に引き継いで貰いたい」
「…果たせなかった夢?」
「ナショナルチームの選抜メンバーとして、世界の頂点に立つ事だ」
「ナショナルチーム!?」
「頼む、この通りだ」
その場に、膝を付いて、ボールを置いた。
そのまま土下座する。
「どうか…俺の代わりに、叶えてくれ…」
抑えていても、声の震えが止まらない。
「…もう一度だけ、挑戦させてくれっっ…」
それ以上は声にならず、嗚咽を堪えていると、肩をそっと掴まれ、躯を起こされた。
「解りました」
「…」
「貴方の手足の代わりを、務めてみせます。その代わり、貴方も俺の頭脳になってください」
「…ジュール」
「貴方の夢、二人で叶えましょう」
ポケットのハンドタオルで、そっと目元を拭ってくれる。
タオルから、微かに汗の匂いがした。
思えば、こんな至近距離で話した事は、一度も無い。
タオルを仕舞うと、彼は俺の腕を取って、立ち上がらせてくれる。
「…顔、洗った方が良いですよ…午後も授業、有るんでしょう?」
「…ん…済まない」
ふと足元のボールに気付き、拾い上げた。
そのまま、手渡そうとすると、何故か彼は離れていく。
「ジュール?」
センターサークル近くまで下がった後、ゴールに向けて走り出す。
走り出す直前に向けられた視線に、意図を理解した。
フリースローラインを越えた辺りで、彼が跳ぶ。
ゴール方向へ向けて、放ったパス。
寸分違わず彼の右掌に収まったボールが、そのままゴールへ叩き込まれる。
「ナイス、シュート」
彼の背中に、翼が見えた。