ウィンターカップに向けて、練習に余念の無い、バスケ部。
「忙しいのに、何時も悪いな、イザーク」
 部を引退した、元キャプテンは、忙しい合間を縫って、こうして後輩達の相手をしてくれている。
「いえ、好きでやっている事ですから」
 夏の大会後、三年部員は、全員引退。
 キャプテンの称号は、四番の背番号と共に、レイが引き継いだ。
 一年の入部希望者も大幅に増えた為、現在バスケ部は、結構な大所帯だ。
 そして、そんな部員全員に慕われている、元キャプテン。
 イザークが練習に参加してくれている日は、皆の士気も違う。
「この後、予定が有るのか?」
「今日は有りません」
「じゃ、二時間位、どうだ?」
「助かります」
 時折こうして、イザークの都合に合わせ、補習をしている。
 イザークの部屋で、俺が教えているのは、第二外国語。
 来春、大学へ進むイザークは、現在受験生。
 所謂、蛍雪時代。
 スポーツ特待の話は、幾らでも有ったのに、昔の俺と同じ、一般受験生。
 理由は、少々厄介な本人の家庭環境と、学院の都合。
 特進クラスのイザークに、学校推薦枠は使えなかったのだ。
 たとえ『スポーツ推薦』であっても。
「お礼を言うのは、俺の方だよ。お前が手伝ってくれている御蔭で、ウィンターカップの調整も順調だし」
「元々、先生を部に引き込んだのは、俺じゃないですか」
「そんな事も、有ったよな」
 出逢った当初の、鮮やかな印象に、思いを馳せる。
 …あれから、色々な事があった。
「でも、イザーク、あまり無理はするなよ」
 イザークが志望しているのは、国際大学。
 必須試験科目に、外国語が三つも有る様な所だ。
 将来を踏まえての学部選択は、プロを目指す上でも、家業を継ぐ上でも、必要だと判断されての事。
 イザークが第二外国語に選んだ言語は、俺も関連分野で修得していたから、入試レベルの指導位は出来る。
 だから、イザークの都合と合いさえすれば、イザークの部屋を訪ねているのだが、イザークも中々忙しい。
 一般受験の受験生の癖に、志望大学のバスケ部の練習に、特別に参加させて貰っているのだ。
 確かに練習を休めば休んだだけ、勘を取り戻すのは大変になる。
 そしてイザークの技術レベルは既に、高校のクラブ程度では、全く物足りないのだから。
 それなのに、時間を見つけては、こうして来てくれるのが嬉しい。

 片付けを終えて、一緒の帰途。
 夕刻から、降り始めた雪。
 クリスマスイルミネーションに彩られた、街並み。
 そういえば、今日はイブだな…と思う。
 俺の視線に気付いたイザークが、笑う。
「ケーキでも買って行きますか?」
 甘い物が不得手だと知っていて、態と言っているのだ。
「…いや」
「先生のお好きな、タルト、購入してあります」
「イザーク?」
「補習のお礼です…帰りに、お持ち帰りになってください」
「…え…あ、ありがとう…その…」
「何ですか?」
「…出来れば、一緒に…いや、忙しければ…」
 口籠る俺を、ふんわりと微笑んで抱き寄せると、イザークが耳元で囁く。
「…暇ですよ…今宵は、ずっと…」

TRY AGAIN